Pet Dog Training TIPS Vol.3
<2005>No.1
異常行動
〜脳の仕組みと化学〜
 遺伝的要素、生物化学、そしてトレーニングのような環境により犬の行動は決まります。先天的なものと後天的なものですね。専門家でさえ、犬がなぜその行動をするのかを完全には理解できません。これは噛むというような危険な行動に対処するときは、特に困ったことになります。私達はインストラクターとして、飼い主さんたちに犬の社会化やトレーニングのしかたを教えます。リーダーシップや管理の技術を伝えるのです。しかし、これでも十分ではなく、情報が欠けているのです。パズルのピースでいえば、全部が揃っていない状態ですね。

 私はしばしばこう言います。「トレーニングは芸術、科学、機械的スキルである」科学者ではない私達は、犬のトレーニングに応用できるかもしれない新しい事実や発見というものを常に知っておく必要があります。問題をかかえた犬を助ける答えのすべてが、必ずしもトレーニングではないのです。

ポジトロン断層法 (PET)とは。

 PETとは人間の体内の細胞の新陳代謝活動を計測する画像診断技術です。脳や心臓に問題がある、またはある種のがんを患っている患者の医療に役立っています。PETのユニークな点は体の基礎的な生物化学や機能を画像化するところです。これまでの診断技術であるレントゲンやCTスキャンやMRIは体を解剖学的に画像化するものです。これらの技術では、病気によって起きている解剖学的に見た組織上の変化を画像化します。PETは、こういった変化の過程を画像化する技術なのです。アルツハイマーのような病気であっても、組織的な異常の全体はみられませんが、PETは生物化学的な変化をみられます。患者を調べるためにPETスキャンは少量の放射性物質を通常は注射という形で用います。スキャナーの画像は、その薬を体がどう取り込んでいくのかをうつします。PETが医療に使われ始めたのは1900年代初頭です。

 ベルギーの獣医行動学者ルーディ・デゥ・ミースター博士は、犬の脳にPETスキャンを用いる研究をしています。
(HPはこちら。http://www.kuleuven.be.//expert/alle.htm)

 「正常な」50頭の犬を基本的な研究対象にしました。さらに研究のために「異常な」行動をみせる犬も50頭用意しました。このプロジェクトは現在も継続中です。この研究の中で見られた1頭の犬に関するレポートを以下で紹介します。

 対象となったのはひどく異常な行動をみせるブルテリアです。フレンドリーで落ち着いた状態から、反応しやすく攻撃的な状況に変わるのです。この犬は壁をしばらくジーッと見つめます。時には1時間以上も続くのです。このじっと見つめる「トランス状態」から、尻尾を振ってフレンドリーになることもあるし、噛みついたり牙を剥いたりすることがあるのです。飼い主はたくさんの獣医師やトレーナーに相談し、問題解決に努力を続けましたがどれもうまくいきませんでした。

 この犬をPETスキャンにかけてみました。PETスキャンに現れる色は、白(もっとも電気活動が活発)から濃い青(活動が低い)まであります。この犬の右脳左脳ともに、まったく色のない部分が15%−20%ありました。この部分は真っ黒つまりこの部分に関する脳の組織にはまったく電気の刺激活動がありません。薬物療法や行動修正プログラムにより、影響が与えられなかったことが納得できます。脳そのものが反応しないのですから。結論として、取るべき道は安楽死となりました。

 PETスキャンは、これまでなぜ異常や危険な行動をとるのかわからなかったことを、説明してくれます。

 組織的そして化学的なことが犬の行動に、特に異常行動に、どのように影響を与えるのかを解明するにはまだ時間がかかります。現時点ではPETスキャンを受けられる犬はほとんどいません。

 インストラクターは、顧客と話す時に決めつけるのではなく「言葉をそのまま受けとめる」ことが大切です。獣医師と話す時には、客観的で詳細な説明をしましょう。具体的でない「支配的」「乱暴」「攻撃的」といったわかりにくい表現に頼らないようにします。少なくとも強度・時間・頻度・いつ・どこで・その行動の直前直後に何があったのかという行動は役に立ちます。ビデオなどを用いるとわかりやすいでしょう。

 インストラクターは「自分が何を知らないのか」を知るだけ賢くあるべきです。


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