Pet Dog Training TIPS Vol.2
<2004>No.23
管理の中で用いる嫌悪刺激

ケンブリッジ・スタディーズ・フォー・ビヘイビアル・スタディーズ(CCBS)は、マサチューセッツ州に拠点をおく団体で、人間の行動修正の研究をしています。自閉症、子育て、職場の安全など多くのテーマを扱ってきました。「行動の科学的研究と実際の問題解決への人道的応用、それに加え人間の苦しみの予防と解放」をCCBSは使命としています。ケンブリッジ・センターは世界中の個人、家族、コミュニティ、地球全体の抱える問題解決に行動の科学を利用します。CCBSのメンバーの多くは人間の存亡は、我々の行動の科学に対する理解にかかっていると信じています。より良い囚人管理を看守に教えるというウィリアム・アバーナスィ博士の報告書には、犬のトレーナーとの相似点が多くあります。

正(positive=陽性)と負(negative=陰性)の管理
ウィリアム・アバーナスィ

B.F.スキナーが、結果がどのように我々の行動に影響を与えるかについての解釈を明確にしました。彼はこの関連を、専門的な用語で、正と負の強化と言ったのです。この二つの考え方は、心理学コースに進んだばかりの学生に大きな混乱を与えてしまいます。学生はpositiveを「良いもの」、negative「悪いもの」と誤って考えてしまうのです。しかしこれはスキナーの意味するところではありません。「正」は強化因子を足すこと、「負」はそれを取り去ることです。正の強化は動機付けの考え方と似ているでしょう。負の強化は脅かすことや脅しに近いものです。どちらのアプローチも、行動を引き出し、それを維持させることができます。

この原則は、もともと動物の研究から始まったものなのです。私は以前、囚人たちにより良い方法で教えるにはどうすべきかを、看守に教えるという仕事を頼まれたことがあります。ある意味これは運面的なことでした。なぜなら従来の刑務所のシステムでは、正の強化因子が用いられることはほとんどなかったからです。とにかく私はお金も必要だったので、コースを教えることを引き受けました。看守はすぐに私のレクチャーに退屈したので、動物のデモンストレーションを使うことにしたのです。

2匹のラットが入った「オペラント部屋」を教室に持ち込みました。この「オペラント部屋」とは多くの行動研究プログラムに使われるものです。30センチ四方くらいのプレキシグラス(合成樹脂ガラス)の箱です。私は、この箱と2匹のラットを使って正と負の強化のコンセプトを伝えるデモンストレーションをしました。正の強化の箱の壁には、フードディスペンサーに連動するレバーがついています。ラットがレバーを押すと、フードが自動的に出てくる仕組みになっています。私はただラットが偶然レバーを押すのを待っていれば良いのですが、長い時間がかかる場合もあります。進歩が速く見られるように、代わりに「シェーピング」と呼ばれる手法を用いました。シェーピングでは、最終的に望まれるレバーを押すという行動に向けてみられる連続した近い行動に対し、実験担当者がラットにフードを与えていくのです。ラットがレバー方向に顔を向けたら強化する、少しでも近づいたら、少しでもレバーにふれたら、と基準をあげていきます。シェーピングの上手な人は、15分程度でラットにレバーを押すことを教えられます。私はそれほど上手でなかったので、ラットにレバーを押させるまでに30分以上かかってしまいました。その後、ラットはもちろん私からの介入なしで、自発的にレバーを押すようになりました。

そしてここからが、もう1匹のラットが入っている負の強化のデモンストレーションです。このボックスには床に電気ショックのグリッドが張ってあり、フードディスペンサーはつけていません。ラットの足の裏にショックを与えるのです。ショックを与えると、ラットは飛び跳ねますが、偶然レバーの上に飛び跳ねればショックを止めることができる仕組みになっています。ラットはすぐにレバーを押し続けていればショックが与えられないことを学習しました。ほんの数分の出来事です。

そこで私は、このふたつの過程について、看守に意見を聞いてみました。一人の看守がすぐに口を開きました「負の強化のほうがずっと短時間で結果が出たし、フードも与えなくてよかったですね」全員が同意するようにうなずいていました。そこでのコンセンサスは負の強化のほうが素早くしかもお金がかからず結果が出せるということになったのです。私は失望しました。デモが逆効果になってしまったのです。自分の考えをまとめようと看守には10分間の休憩時間を与えました。

ひとりの看守が実験箱のところへ行って正の強化をうけたラットを抱き上げ遊び始めたのです。それを見ていたもう一人の看守が負の強化を受けたラットを抱き上げようとしました。しかしそのラットはもがいて看守に噛み付いたのです。痛みに叫び声をあげ、ラットを手からはなすのにかなり苦労しました。

ひと騒動が終わった後、看守に質問をしました。「正の強化と負の強化についてどう思いましたか?」私は得意げに言いました。看守の一人が「そうですねぇ、負の罰には効果がありましたが、あのラットとはかかわりあいたくないです」と答えたのです。私は続けました。「朝この2匹のラットをケージから出す時、正の強化を受けたラットは、みなさんをどうやって迎えてくれると思いますか?」看守のほとんどが同時に「実験箱でえさがもらえるのがわかっているから、大喜びしてくれるでしょうね」

「その通り」と答え「実際これは、皆さん方が毎日食事をあげているペットの犬や猫でも同じなのです」次に、「それでは負の強化を受けたラットはどのように反応するでしょう?」とたずねると、これもほぼ同時に「人を怖がるでしょうし、実験箱へ行きたがらないでしょうね」との答えが返ってきたのです。

「そうなんです」と私は言いました。「ケージの奥に逃げ込み、連れ出されないようにしっかりとワイヤーをつかんでいるでしょうから、ケージから連れ出す時には、手を保護するためのグラブが必要になりますね。なんとか実験箱のところへ連れて行くことができてもケージに入れられるのを嫌がり、鳥のように飛び上がって逃げることもあります。やっとの思いでケージに入れたとしても、ショックから逃れようと、すぐにレバーに駆け寄って押し続けるでしょうね」

「負の強化を受けたラットと会社の従業員の姿がだぶりませんか?多くの従業員は仕事に行きたくないため、遅刻をし、休憩を長く取り、早く会社を出ます。今日では、ほとんどすべての動物トレーナーが、動物に何かを教える時に正の強化法を用いています。シーワールドのトレーナーがシャチのシャムに負の強化を使ってトレーニングしたらどうなるでしょうね?残念なことなのですが、ほとんどの従業員達はいまだに負の強化によって管理されています。管理職の人達は、動物のトレーナーほど進んでいないですね」


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