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犬の行動学における「衝動」
良いインストラクターはさまざまなところから情報を得る努力を続けます。このトレーニングチップスの目標は、犬のトレーニングや人に教えるという事に関する最新かつまだ公になっていないような情報をお伝えする事です。英語のみですが、私は最近「Coaching
People to Train Their Dogs」という本を出版しました。インストラクター向けの400ページに渡るマニュアル本の出版にあたって、さまざまな項目について多くのリサーチをしました。日本語ではまだ出版されていないため、新しい情報部分をいくつかご紹介していこうと思います。
私が特に好んでいるのは、賛否両論ある項目についてのリサーチです。犬がいろいろなものに「衝動」を持っているというのは興味深い考え方です。この「衝動」とは正確には何のことで、インストラクターはこの考え方を生徒にどう説明をすればいいのでしょうか。同僚達からも尊敬される動物行動学者のダン・イーステップ博士に意見を聞いてみました。
「衝動に関して公式に書かれたものはあまりありません。コンラッド・ロレンツ氏がその著書「The Foundation of Ethology(1981)」の中で少し言及しています。ロジャー・アブランテ氏の「The
Evolution of Canine Social Behavior(1997)」。衝動について深く掘り下げた書物は、別の競技とそれに関する本で多く語られています。ゴットフリード・ディルデイとシーラ・ブースが「Schutzhund,
Training in Drive」で、そしてイワン・バラバノフ氏とカレン・デュエット氏の「Advanced Schutzhund」で、さまざまな衝動と扱い方について書いています。衝動についての問題は、衝動とは何か、どのように扱うか、いくつあるのか、などについて各々が異なる意見を述べていることにあります。衝動を願望とみなす人・トレーナー・行動学者もいます。こういった人によれば衝動の数は何百にもなるといいます。潜在的に持つ本能だという人もいます。衝動の数は人々が言うよりも少ないというのが私の見方です。さらに、衝動なのか刺激に対する意識ある反応なのかの判断を下す時、行動/反応の知覚閾を見る場合とは若干違った見方をしています。
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私なりの定義をご紹介します。
群衆衝動:群の仲間達と感情的なコンタクトを得ようとする衝動/本能
狩猟衝動:視覚・嗅覚の届かないところへ行ってしまう対象を追う衝動/本能
捕食衝動:獲物を追いかけ、噛みつき、殺す衝動
防御・防衛衝動:群もしくは物を守る衝動/本能
闘争衝動:相手に対し身体的な争いをする衝動(闘争衝動を本当の衝動とはみなしていません。なぜならこれは防御と捕食衝動の組み合わせだと思うからです。捕食衝動は、犬に自信を持たせ「駆り立てる」ことにつながります。防御衝動は攻撃に強さを与え「追い払う」ことにつながります。これを繰り返しながら防御と捕食衝動を高め、ある対象のために戦うという犬の気持ちを高めることも可能になるのです)
また、狩猟衝動を追跡衝動やエアセント衝動などと分ける人もいますが、これらはすでに存在する衝動をさらに細かく分けているにすぎないと思います。衝動を満たしたいという欲望を強化因子として用いることができるので、実際のトレーニングにおいて衝動は重要です。例えば、私のところに捕食衝動の強い警察犬がいたとしたら、ある行動へのご褒美としてひも付きのおもちゃを追わせることができます。つまり強い衝動を持つ犬には、強化の機会が多いことになります。衝動を満たすことは犬にとって非常に大切なことなので、ここから信頼度の高い行動を引き出すことも可能になります。非常に興味深いことなので、この話が皆さんのお役に立つことを願っています。
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